昔から感情のはけ口は文字にすることだった。
嬉しいも悲しいも怒りも憎しみも。
何年も書き溜められた言葉たち。
丁寧に書いたページ、殴り書きのページ。
それらがいつしか音となり歌となった。
書いたのは全て自分のこと。
誰かに見せる為でも誰かを救う為でもない。
そんな私の生きた日々から溢れた言葉が音となってあなたの日々の傍にいれるのだとしたら。
それは、とても嬉しいことです。
詩央里3rd Album 「雨ノチ明日芽吹ク」
1stアルバム「To my brothers」、2ndアルバム「咲く意味は」に続く3rdアルバム「雨ノチ明日芽吹ク」がこの秋リリース。
これまでの詩央里の全楽曲の編曲を担当した白石なるとのデュオ作品。
2020年11月7日のワンマンライブにて、白石なるの歌うグランドピアノと詩央里の声を載せてお届けします。
メロディーに乗せず歌いたい言葉もあって完成したこのポエトリーソング。
いざ言葉を書き出したらほんの数時間で文字だらけの紙が数枚分になった。
そこからどこの部分を曲にするか、に一ヶ月位以上かかりました。
ピアノの白石なるくんに「この言葉の後ろでこの曲のメロディーを鳴らして欲しい」とか「この曲とこの曲を混ぜたようなメロディーを鳴らして欲しい」とか結構な無茶振り注文してしまったけど、音源届いた瞬間泣きました。私がやりたかったそのままのものができました。
全ての音に意味をつけています。
ぜひ感じて欲しいです。
詩央里
詩央里の詩の朗読と白石のピアノの伴奏の曲です。これから始まるアルバムのイントロダクションであると同時にアルバム全体を総括するような内容となっています。
詩央里から送られてきた詩と実際に朗読したデモを確認して、サウンドの方向性や盛り込みたい仕掛けなどについて相談しながら作曲しました。アルバムを聴けば聴くほど味わい深い1曲になるのではないでしょうか。
白石なる
昨年から作りはじめて、今年初めには完成していたもののワンマンで初披露したくてずっとあたためてきた曲。
誰かが話す東京についての話や、色んな歌うたいが書いた東京というタイトルの曲を聞くと悲しくなることが多かった。
私はこれまでの日々のほとんどを過ごした東京が好きです。
大切なものがたくさんある場所だから。
本当に僅かな言葉で言いたいことが全部言えた。
大切な曲です。
なるくんのピアノなしでは歌えないけどね。
詩央里
詩央里から送られてきた歌詞を元に作曲した書き下ろしの新曲です。ひとつ前のアルバム『咲く意味は』の制作やレコ発ライブを終えたくらいの頃から制作を始めていました。曲名も手伝ってかなりプレッシャーを感じたもので、2度の作り直しを経てようやく自信を持って詩央里に聞かせられるものが書けました。
僕は歌詞から曲を作るときは言葉を話すのと似た音程感覚で歌えるメロディを書くように意識しているのですが、今回は歌うのが難しくならないようにする意味でダイアトニックスケールから外れた音をできるだけ使わないという縛りを設けて作曲しました。
和声については詩央里自身はまず書かないような、テンションコードや部分的な転調を多く含んだものになっています。拍子についても詩央里としては珍しく、大きく4拍子とも細かく3拍子とも捉えられる複合拍子で書いています。詩央里はこのリズムにはかなり手を焼いたようでしたが、このリズム感と前述した旋律や和声の仕組みが上手く組み合わさることで独特な浮遊感のあるサウンドに仕上がったと思います。
白石なる
幼かった頃の方が今よりずっと全ての感情をより鮮明に感じていたように思います。
たった数分の出来事を書いた日記のページ。そこに書かれた文字。
こうして作品になることで、そのページに置いてけぼりにされていた言葉たちと自分の感情を救ってあげられたような気がしています。
私にとっての作品つくりとはこういうものだなと思っています。
美しいイントロからはじまる感情的なピアノと声の共鳴具合が見所です。
詩央里
「これ、私のトラウマだから」と言って聞かされた詩央里の新曲です。原曲の雰囲気は維持して、和声や構成を見直すアレンジをしました。
どの曲にも言えることなのですが、僕はジブンで作曲したり編曲したりしたものは毎回同じ内容で演奏する必要はないと思っています。人の気持ちや考えは日々更新されます。気分だってその時々で違いますよね。作るときにイメージしたことが、演奏するときにはすこし変わっていることなんてはよくあります。僕はそういったジブンの変化を素直に音に出したいと考えているので、同じ曲を演奏しても必ず毎回どこか違う一期一会のものになります。この思想は共演者にとって障害になるケースも少なくないはずなのですが、詩央里はむしろ僕の即興性を気に入っているようなので(でもなければきゃ5年もいっしょに演奏していないでしょう)、今回の収録でもしっかりアレンジの大枠を組んだ上で自由に伴奏させてもらいました。歌詞の内容を踏まえた上とはいえ、ここまで好き勝手に長尺のソロを収録させてもらえるのはポップスでは本当に珍しいことだと思います。ポップスやジャズやアンビエントといったジャンルの狭間にいるような感覚がとても面白いです。
白石なる
2019年3月に書いた「もし生まれ変わるとしたら」というタイトルの短いブログの内容が曲になりました。書いたのは、生まれ変わった後の自分。
ずっと自分の中にある強い感情の言葉が歌詞になりましたがなるくんのピアノと歌うと優しい気持ちで歌えます。
詩央里
詩央里の歌声をイメージしながら、同時に「詩央里らしさ」を拡げる目的を持って作った新曲です。詩央里が歌詞を乗せる形で完成させてくれました。デモの段階ではもっとダンソンやチャチャチャのようなリズムの陽気な曲だったのですが、ラテン風味をすこし残しつつもバラードに寄せるような形に落ち着いていきました。
比較的かんたんなコードを使いつつもテンションノートを多用したメロディや細かい転調を用いることで色彩豊かに仕上がったと思います。いつか詩央里の弾き語りでこの曲が聴けたら嬉しいですね。
『東京』でも同じなのですが、いわゆるAメロ・Bメロ・サビ、あるいは1番・2番といった楽式ではなく、行ったきり同じところには戻らずに完結する形の曲になっています。多くを語らず何度も聞かせない構成は、言葉に重きを置いた今作において具合の良いキャラクターピースのような雰囲気を持っていると思います。
白石なる
なるくんと共作した楽曲です。なるくんが鳴らすコードの上でメロディーと言葉が同時に頭の中で鳴り完成しました。
考えることも、その都度自分の出す答えも、これからいくらでも形を変えていくと思いますが27年生きた時点での自分の出した答えのような曲。
何もかも意味を持たない世界。
だからこそ尊くて美しい世界。
ここはそういう場所だと私は感じています。
詩央里
前作『咲く意味は』に収録された楽曲のリアレンジバージョンです。ミニマルな編成に合わせて構成や和声を一部編曲し直しています。とくにアウトロの転調する個所は演奏していてかなりグッとくるポイントです。より暖かい雰囲気になって曲の見え方が立体的になったように感じます。曲の内容に関しては前作のライナーノーツにも記した通り、ちゃんと大人になれた僕や詩央里のひとつの到達点のような曲だと思います。長く演奏していく曲になるのかもしれませんね。
ところで、一口に「編曲」と言っても編曲家は具体的にどういう作業をしているのかご存知でしょうか。その内容はまちまちで、例えば弾き語りにドラムやベースを足してバンド編成にするのも、吹奏楽やオーケストラの編成でインストに書き換えるのも、バラード風の曲調をジャズ風にするのも、ある個所の和音を別の和音に置き換えて音の響きを変えるのも、全て編曲と言えます。僕が詩央里の楽曲で編曲の作業として行っているのは「歌詞と歌のメロディ以外の全てのことを取り決める」ということです。メロディに適した和音を付け、おおまかなリズムのパターンを決め、前奏間奏後奏を書き加えて構成を整えるということが最初の大きな作業になります。そこからは実際に曲を演奏してみて、諸々の問題を確認したり詩央里やバンドメンバーの要望を聞いて調整を重ねて更新を続けていきます。今回のようにアルバムを作る場合、レコーディングを行うときが一旦更新を止め完成とするときですが、収録を終えても練習やライブで演奏する度に曲は進化していきます。
白石なる
言葉を選ばずに書きました。
新月の夜、月が出ない夜は良くないことが立て続けに起こるがそれらは次の月が現れるまでの間しか悪さを出来ないと聞きました。
逃げ出したくなるような悲しい出来事や、憎い出来事、テレビから流れてくる耳を塞ぎたくなるようなニュース。
それらの本当の主人公は誰なのでしょうか。
救われたいのに救われない魂の叫びは、誰の目にも触れられないまま目も当てられないSOSとなってやっと形となる。
次の月の出る夜を待っている歌です。
詩央里
詩央里の「怒り」によって生まれた新曲です。「怒り」といえば前作『咲く意味は』に収録された『犠牲の海』も近い動機で書かれた曲なのですが、今回は「呆れ」や「諦め」も含まれるような、内に秘めた「静かな怒り」であるように感じたため、気怠くもあり情熱的でもあるようなラテンのフィーリングを前面に出したアレンジに挑戦してみました。和声は『宛先違いの手紙』と同様、弾き語りのデモに付いていたシンプルな循環コードを大元にコードを着せ替える作り方をしています。今作中最もアレンジの力が強く出た曲なのではないでしょうか。演奏していて意外なほどに燃えます。
殆どの詩央里の作品はシンプルな伴奏が付いただけの弾き語りでも十分に伝わるよい歌になっていると思います。僕が編曲を行うのは、彼女の音楽的な間違いを正すためではありませんし、曲をよりよいものにするためというわけでもありません。イメージとしては視野を広げたり視点を変えたりして見せるような具合でしょうか。アレンジされたものもシンプルな弾き語りもどっちも好きというリスナーがいらっしゃると嬉しいですし、どちらかしか好きじゃないという方がいらっしゃっても成功であると僕は思っています。
白石なる
なるくん書き下ろしの楽曲に言葉を乗せました。
曲を聴かせてもらった瞬間に乗せたいテーマが浮かびました。
優しくて、力強さも感じるメロディー。
二人の人物の会話を曲にしました。
私自身普段大切に扱っているつもりの「言葉」
ですが、ふとその持つ力を忘れてしまう時もある。
愛に溢れる言葉も、心無い言葉も息をして私たちと共に在る。
いつも忘れずに胸にしまっておきたい想いを詰め込むことができたと思います。
詩央里
アルバム用に提供したジャズバラード風の新曲です。実は2013年の春ごろに作ったもののどこにも出さなかったピアノとトロンボーンのための小品が元になっています。7年も前というだけのことはあって、今だったらこのメロディは書かないよなぁ、書き直すか?それとも詩央里にメロディを考えてもらうか?などと考えましたが、ひとまず原曲通りのデモを作って詩央里に送ったらそのまま採用してくれました。そこに力強くも暖かい詞を乗せてくれたことでようやく曲が完成したわけですが、それよりももっとなんというか、昔のジブンが救われたような、生きることを続けてきてよかったというか、そんな気持ちになったものでした。
同じメロディでも登場するたびに細かくコードを変える伴奏をしています。色彩感の変化をお楽しみいただけたらと思います。
白石なる
このアルバムの中で間違いなく中心曲になるだろうと思いながら書いた曲です。
どの曲もそうですが中でも特に強い想いを詰め込んでいます。
大人になるにつれて果たせない約束が増えました。
頭では分かっていてもどうしても行き場のなくなった感情を、次の世界へ導けるように願いを込めて作りました。
次に出逢えたとしたら、例え形は変わっていたとしてもこの歌が引き継げないあなたとの記憶を思い出すきっかけになりますように。
なるくんも書いてくれていますが、弾き語りで歌う時よりもキーを上げています。
なるくんの力強いピアノに乗ってどこまでも響いていってほしいと思いながら歌っています。
詩央里
詩央里の書き下ろしの新曲です。この曲ができたことでアルバムの制作を決意できたのではないでしょうか。この曲を核にするようなイメージの元で他の曲が作られ、アルバム全体が形作られていったように感じます。それだけにアレンジには力を入れました。複雑にしすぎないように、歌が生きるように王道っぽく、それでいてきちんと作家性を出す、などと考えることが多く、それを実現するために悩んだ時間も長かったと思います。
気合いの入り方についてはおそらく詩央里も同じで、この曲はずいぶん前から弾き語りで演奏していたのですが、いざデュオで録音してみたら「もっと行ける」と思ったのでしょう、弾き語りよりキーを上げたいと言い出したのです。その上で終盤でさらに転調してキーが上がるようにと、アレンジの直しの注文までしてくれました。制作期間中にアレンジから作り直した唯一の曲となりました。
個人の見解ですが、おそらくアルバムで紡がれるストーリーはここが終着点で、これより先の曲は後日談のような立ち位置になっているのではないでしょうか。
白石なる
十代の時につくった曲です。
まさか十年後も歌い続けているなんて思っていなかったな。
当時ピアノもギターも弾けなかった私が鼻歌で作った歌。
自分の大切な人が悲しんでる時に、その悲しみを半分こ出来たらいいのになと思って書きました。
なるくんに初めてピアノ伴奏をしてもらったのがこの曲。
鼻歌だけでしか歌ったことなかったふんわりとしていた歌が、「曲」になった時に感動した瞬間を今でも忘れません。
詩央里
随分前から伴奏させてもらっている詩央里のオリジナル曲です。僕にとっては、詩央里と出会って最初に聞かせてもらった彼女の自作曲でもあります。出会ったときにふたりで演奏するためにアレンジを書いたのち、詩央里の最初のアルバム『To my brothers』のために新しくアレンジを書き、その後『咲く意味は』のレコ発ワンマンライブの演出用にインストアレンジを書いて、そしてまた今回ふたりで演奏するアルバムのためにアレンジを書くことになりました。4回目のアレンジということでさすがに方向性に悩んだので詩央里に相談したところ、「苦しんでいるあなたの痛みをすこし分けてもらえたらいいなっていう歌だから、綺麗な音色とメロディで痛みを和らげてくれる絆創膏みたいな雰囲気にしてほしい」というヒントをくれました。ならば詩央里が力を抜いてそっと歌って人に寄り添えるように、詩央里自身が誰かの絆創膏のようになれるようにと思って考えたのが今回のアレンジです。馴染み深いはずの曲がまたすこし違う顔を見せてくれたように思います。そして詩央里らしさもまたすこし拡がったのではないでしょうか。
白石なる
このアルバムを制作開始してから、「新曲できたよ」となるくんから送ってもらった曲。
正直ここに歌入れるの?と思うくらいピアノだけで完成してるように思えて私は歌なしのデモ音源をインストとして何度も聴くくらい好きでした。
どんな言葉を乗せようか結構悩みました。
何度も聴いているうちに、浮かんだワードは「夢」でした。
思えば幼い頃からずっと目指してきた私の夢は歌手になることでした。
とにかく歌が上手くなりたくて、高音を綺麗に出したくて、大きな場所で歌いたくて、たくさんの拍手が欲しくて。
そのために必死に練習した歌でしたが、今歌っている理由は大きな会場で歌うためでもたくさんの拍手を貰うためでもない。
歳を重ねるに連れて夢は変わるものだけど、過去の夢は消えたわけではなくむしろ今の私を支えてくれています。
だから、形は変えても何も失っていない。私もあなたも。
詩央里
詩央里のために書き下ろしたワルツ風の新曲です。僕が1年でいちばん好きな新緑の季節に、家の窓辺で外の景色を眺めながらピアノを弾いて作りました。詩央里の歌をイメージしながら歌いやすい音域でメロディを書くということ以外は特に何も気にせず、自然体で思う儘に作曲しました。脈絡のない転調を重ねつつもきっちり元のキーに戻ってくる展開は非常に僕らしいと思います。歌とピアノがハモるといった編成ありきの仕掛け作りに挑戦できた点も良かったと思います。
上手く書けて気に入ったな~などと言っているうちに詩央里が歌詞を乗せてくれました。これまた僕に向かって歌っているのかと、心配ないよと、昔のジブンを許してあげて大丈夫だよと言われているような、それこそ絆創膏のように寄り添ってくれているように感じ、一層たいせつな曲になってしまいました。
白石なる
今年、突然世界が一変した。
多くの人が戸惑い、苦しい選択を迫られた。
何が正解かも分からない中、人と人、組織の分裂が露骨になった。
助け合いに声をあげる人もいれば、戦わなければならないと言う人もいた。
どんな選択をした人もいつか同じ場所で同じ歌を共に歌う日が来ますようにと願いを込めてつくりました。
同じ場所にいなくたってちゃんと手は繋げるから大丈夫。
詩央里
詩央里が「ライブでみんなで歌えるように」と作った新曲です。まだサビしかできてないような状態から構成や和声を組む役割を担ったため、感覚としては編曲というより共作に近いような気がして愛着があります。
なんてことなく自然に歌えるように、比較的シンプルでさらりとしたアレンジにしてみました。フェードアウトの先でまだみんなで歌っているようなピースフルなイメージです。
こうして全曲並べてみるとコンセプチュアルに感じます。アルバムを通して詩央里が伝えたかったドラマを感じ取ってもらえたらと思います。
白石なる
詩央里
シンガーソングライター。1992年10月23日生まれ。北海道生まれ東京育ち。
当たり前に過ぎていく日常の刹那に浮かぶ言葉を、時には語り掛けるように、時にはドラスティックに歌い上げる。それは貴方の心を包むように、心にささるように。
現在は路上、バー・レストラン、ライブハウス、SHOW ROOMとさまざまな場所で活動中。
詩央里brothersという仲間と共にバンドサウンドでのアルバムをこれまでに2枚リリース。
自分の生きた日々から生まれる言葉を作品にして届けている。
白石なる (shiraishi NAL)
1990年神奈川県横浜市生まれ。
14歳のころ独学でピアノをはじめ、16歳で作編曲の勉強をはじめる。大学在学時よりロックバンドやジャズバンドでの演奏活動をはじめ、大学卒業とともに作曲家としてのキャリアをスタートさせる。
現在は環境音楽作家として舞台や映像作品、展覧会やラウンジスペースなどのための音楽を作る活動を行っている。また、自身のリーダーバンドであるピアノトリオのNARUTRIOや、30人編成の大所帯お祭ロックバンドのオワリズム弁慶など、様々な所属での演奏活動を行っている。
これまでにピアノを伊藤みどり、山田亜由美、エレクトーンを西山淑子、吹奏楽法を村松功介の各氏に師事。昭和音楽大学音楽芸術運営学科アートマネジメントコース卒。